2005年06月16日

唐音(善庵随筆・和学弁)

○和学弁に、ひとゝせ長崎にて、唐人の旅館より一日寺〔割註〕コレ一曰示ナルベシ、訳家必備にも、一曰示一百斤ト載セタリ。」と書付て是をとゝのへくれよと、通詞の方へ言おこしたるに、皆々寄合て何の事やら合点せず、誠に唐人のねごとなり、されどすて置べきやうもあらで、聖廟の総裁向井玄升に見せぬ、是もとくと合点せず、やゝしばらく過て、玄并云は、もし唐音にてよまば、知るゝ事あらんと、唐音によみければ、早速事済たるよし、一日寺《いわし》とよめば、日本人が早く合点すべきと、余り唐人の念の入過たるよりおこりたる事ぞかし、トアレドモ、コレハ長崎ノ事、不案内ナル人ノ、一曰示ト書ケルヲ見テ、珍シキコトニ思ヒシヨリノ造語ト思ハル、長崎ニテ唐人応用ノ物件ヲ乞フニ、必ズ単子ヲ用ユ、通詞唐人ヨリウケトリテ、先ヅ唐音ニテ読誦一過シ、日用アリフレシコトハ、直ニ宿町へ申シ付ケ、コトカハリタルハ、翻訳シテ其役筋へ出ス、唐人スベテ日本産ノ漢名ナキモノ、或ハ漢名分明ナヲズ、又ハマギラハシキ物件ヲ、単子上ニ書載スルニハ、一言ノ下ニ会得シ易カラシメンタメ、唐音ヲ以テ日本語ニ填字ス、鯔魚《イワシ》ヲ一曰示、〓木《カシ》ヲ加真、鰹節《カツホブシ》ヲ憂子魚、畳《タヽミ》ヲ蹈蹈面、フスマヲ□司馬、苫《トマ》ヲ套馬、弁当ヲ便道、重箱ヲ受百菓、トイフノ類、枚挙ニタヘズ、コレ常ノ事ナレハ、ナンゾ合点セヌコトノアルべキヤ。

随筆大成旧1-5(新1-10)
古事類苑 文学部 第二十七 外国語学
posted by 国語学者 at 01:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 字音資料 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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