2005年04月19日

西田直養『筱舎漫筆』巻四「今の俗語におなじき古言」

ちとゝいふ詞、うつぼ嵯峨院の巻にみえ、または今物語、秋夜長などにもいでたるを、すぺていまいふちとのつかひざまなり。おのれといひて、人をおとしめいふこと、宇治拾遺にあり。又宇津ぼに、尾の二てんといふこともあり。いまいふ詞の、おもひのほか、ふるくよりいへるがおほし。いま貴人の何事にても物することをあそばすといふ。是もうつぼ吹上に、やまとうたあそばすとあり。又御ごあそばすとも出たり【祭使】。いま夜とぎなどに物くはするを目さましといふ。是もうつぼに、よゐのひと%\目さましにたまふとて云々あり。口いれといふことは住吉にあり。色ごとの煤婦にいへり。耳よりといふもあり。大和物語に、つゝみに物などいれて云々などもあり。つゝみといふは、物をつゝむものにて、此詞はふかくてよし。さるをふろしきつゝみといふは、慶長の頃の画にもあり。ふるくよりいまもしく風呂場のあがり口にしくあり。それにて物をつゝみたるなり。この風呂しきの名は、後にてたゞつゝみといふは、大和物語也。また増鏡に、浅原の為頼が内裏に狼藉せし時、御門はいづくにおかるぞととひしことあり。此詞もふるし。水鏡にうかひといふことあり。〔割註〕節用集、御字本宗因記鵜飼、かねをばつくといふにかぎりたるやうにおもひしを、水鏡に、鐘をうつとあり。又からだのことを五体といふは、後の事かとおもひしを、秋の夜長に、五たいを地になげていのるといふことあり。同書に、書院の窓よりふみをいれたること。あり。いまの書院床のやうなり。いにしへは書文几といへるを、書院のまどともいひしにや。同書に、その坊主といふことあり。これは坊のぬしといふことにて、いまいふ体語にあらず。同書梅若の勢田にて入水の所に、ちかき鳥辺野にて云々とありて、火葬せしことあり。火葬場をばやがて只鳥辺野としもいひしなるべし。今物語に、あるじはあるきたかへてといふことあり。いまいふ留守なり。よき詞なり。同書にかはゆき事といふ事あり。いまむごいといふ意なり。可愛の心にあらず。又同書に色なほしゝてといふことあり。いまの心とおなじ、宇治拾遺に、横座とあり。いまも田舎などにて客座をよこ座といふ。〔割註〕いるりの横也。」同書に、物くひしたゝめてとあり。いまも物くふことをしたゝめといふ。同書に、勿体なし云々。博打の打ほゝけ云々。又清水に千度参りといふこともあり。いま専ら御千度とてするもふるし。又河にさぶりといる。又づぶりと云々など、いまいふ詞とおなじ。かやうの類あげてかぞへがたし。物みる度にぬき出すべし。浜松中納言物語に、ひとをさしておまへといへり。西行物語に、あいさつといふことあり。又堤中納言に、前夜といふ事をゆふべとあり。又枕草紙に、さいまへるといふことあり。衣の事をきものとは古旨にいへど、きるものとは後かとおもへば、はやくうつぼに出たり。猶おひ\/かきのすべし。
posted by 国語学者 at 00:01| Comment(0) | TrackBack(1) | 方言史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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