2017年06月23日

物類称呼 序・凡例

物類称呼序



二條のおとゝの筑波集に草の名も所によりてかはるなりといふ句に救済法師なにはの芦もいせの浜荻と附しにもとづぎて諸国の方言の物ひとつにして名の数々なるたぐひを採り選ひて五の巻とはなりけらしそも/\いにしへを去る事,遥(はるか)にしてそのいふ所も彼にうつりこれにかはりて本語を失ひたるも世に多かるへし中にも都会の人物は万国の言語にわたりてをのづから訛すくなししかはあれど漢土の音語に泥みて却て上古の遺風を忘るゝにひとしく辺鄙の人は一郡一邑の方語にして且てにはあしく訛おほしされども質素淳朴に応してまことに古代の遺言をうしなはず大凡我朝六十余州のうちにても山城と近江又美濃と尾張これらの国を境ひて西のかたつくしの果まて人みな直音にして平声おほし北は越後信濃東にいたりては常陸をよひ奥羽の国々すへて拗音にして上声多きは是風土水気のしからしむるなれはあなかちに褒貶すべきにも非す畿内にも俗語あれば東西の辺国にも雅言ありて是非しがたししかしながら正音を得たるは花洛に過べからずとぞ今こゝにあらはす趣は其言の清濁にさのみ拘はるにもあらずたゞ他郷を知らざるの児童に戸を出ずして略万物に異名ある事をさとさしめて遠方より来れる友の詞を笑はしむるの罪をまぬかれしめんがために編て物類称呼となつくる事になんなりぬ





安永乙未孟春日



江都日本橋室坊越谷吾山識



物類称呼凡例



一此書あつめて五冊となし天地、人倫、草木、気形、器用、衣食、言語、等を七門にわかつハ簡易にして探り索めやすきを要とす それが中に天地と言語と器用衣類の如きまゝ交へ出すもの有もとより街談巷説を聞るにしたがひてしるし侍れば管見不堪の誤多からむのみ又其国にて如v此称すとは国中凡の義にあらす一国は勿論一邑のうちにても品物の名異るもの也其に録する事あたはず

一諸品の和訓は源順ノ和名鈔及漢語抄本朝印行の諸家本草等に譲りて審に誌さず聊是は識者のために非す専童蒙に便せんとす故に事物の悉く知りやすきのみを載てなを又所〃註釈をくはふ

一引用る所の書の目に[]をもふけて是をわかつ又方言の読法には−をもつて知らしむ

たとへば花鳥風月くはちやうふうげつ如v此の類ひなり余是に准ず

一諸国ともに中品以上の人物は言語あやまらす音声自然と和合して能通用す故に爰に洩す事多し

一此編に著す所は唯民俗要用の事のみをしるす広大なる国郡無尽の言語いくばくの歳月を経るとも大成する事難し殊更短才をもはからず

をそらくは蠡海の讒(そしり)もあらんかし

物類称呼凡例畢





うわづら
posted by 国語学者 at 12:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 方言史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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